新時代の学びを支えるICT教育のトレンドと現場の課題
公開日:2019/09/30 更新日:2024/04/05
インターネット全盛の現代、学校教育も大きく様変わりしつつあります。電子黒板やデジタルテレビ、ノートPC、タブレット端末などを用いた「ICT教育」がトレンドとなり、デジタル機器の整備が学校で進んでいます。
今回は、新時代の教育として脚光を浴びるICT教育の現状と、移行期にある教育現場の課題について解説します。
1. 全国に広がるICT教育の取り組みと背景
PCやスマホで検索すればすぐに答えがわかる時代の今、暗記で知識を詰め込む従来の教育はもはや時代遅れと言わざるをえません。全世界がデジタル化していく未来に求められるのは、ネット上の膨大な情報をどう取捨選択し、課題解決に生かすのかという具体的で実践的なスキルです。
しかし、こうした能力は「知識を詰め込んで、決まった答えにたどり着く」ことを目指す既存の教育手法では得ることができません。そこで着目されているのが「ICT教育」、つまり情報通信技術を用いた新たな教育手法です。
このICT教育とは、端的に言えば「情報活用能力を育む教育」です。具体的には、ネットを活用する上で欠くことのできないリテラシーを身に付け、大量の情報から価値あるものを導き出し、自分の発想と組み合わせて新しいものを創造することを目指しています。
そのためにはPCやタブレットといった情報端末や電子黒板といったITCデバイスの操作や活用に習熟することが必須となりますが、これがITC教育本来の目的ではなく、あくまでも必要な道具を使いこなすトレーニングという位置付けと言えるでしょう。
こうした考えに基づいて、文部科学省では平成26年より全国の小中学校でICT教育の取り組みを進めてきました。具体的には、PCやタブレット、電子黒板といったITCデバイスの導入、普及を図ることで教育現場でのデジタル環境を整備し、学習効果や子どもたちの学ぶ意欲を高めながら、目的とする情報活用能力の育成を目指すというものです。
2. eラーニングとICT教育の違い
では、ICT教育は従来の教育と何が違うのでしょうか。これまでは教師が教え、生徒がそこから知識を学び理解するという進め方が主流でした。いわば、あくまでも教師が与える側で、生徒は受け取る側という関係です。
ICT教育では子どもたちが主体的に学ぶことを重視しています。これは「アクティブラーニング」(能動的学習)という考え方で、生徒はPCやタブレットといった情報端末を介して授業に積極的に「参加」することにより、知識を与えられる側から知識を獲得する側へ立場をシフトさせます。子どもたちの学ぶ意欲を引き出し、学習効果を高める効果もこうした積極参加型授業のメリットと言えるでしょう。
ICTデバイスの活用により、教師と双方向のコミュニケーションを図ったり、クラスの仲間と共同作業やグループ研究を進めたりできるため、子どもたちは組織やチームを動かしながら課題を解決する術を身に付けることができます。
◎eラーニングが持つ課題
このITC教育に似たものに「eラーニング」があります。eラーニングもまた情報通信技術を活用した学びという点でITC教育と共通していますが、内容は大きく異なります。eラーニングでは、学ぶ側はモニターに映し出された講義を視聴するだけで、授業に参加する余地がないからです。
今も、資格試験の通信教育や予備校のサテライト授業などにこのeラーニングが利用されていますが、あくまでも教える側から学ぶ側への一方的な知識の流れがあるだけです。それでも、学ぶ側に相応の目的意識やモチベーションさえあれば問題ありません。しかし、そうでない場合は、教師や講師がその場にいないことから授業そのものに一定の緊張感がないため、生徒側は集中できずモチベーションの持続が難しいというデメリットがあります。
受験や資格取得といった明確な目的があれば、eラーニングは短期間で効率的に学習できます。しかし、小中学校の授業でのeラーニングの活用にはまだまだ課題が山積みです。子どもたちが自ら学ぶ習慣をつくるには、受け身だけの授業では足りないからです。
そこには、生徒たちが授業に積極参加する仕組みや働きかけが重要になります。その意味で、従来のeラーニングよりも、アクティブラーニングを重視するICT教育の方がより理にかなっていると言えるでしょう。
3. 教育現場におけるICT機器の整備状況
ICT教育がどの程度普及しているのか、教育用PCや電子黒板といったデバイスの導入傾向の推移から確かめてみましょう。情報端末の主役となっているタブレットは平成25年から急速に台数が増え、2年後の平成27年には約15万台と4倍近い伸びを示しています。また、同年においては、教育用PCに占めるタブレットの割合は8.14%に達し、情報端末の切り替えが進んでいることを物語っています。
また、ITC教育に不可欠な電子黒板の普及状況を見ると、平成21年を境に拡大が加速し、平成27年では全国の小中高校で9万台超に達しています。ただし、全国の教室数から見れば7%弱の普及率とこちらはまだ道半ばといった印象。なお、電子黒板とは文字通り、描いた内容を電子的に変換できるホワイトボードのことで別名コピーボード、インタラクティブホワイトボードとも呼ばれています。
さらに、教育現場の通信インフラである校内LANの整備状況を見ると、平成17年の段階ですでに約半数の小中学校、高校で導入され、平成27年ではいずれも80~90%に達しています。
全体として、ITC環境は急速に整いつつある印象です。しかし、電子黒板のデータを見ると全体の教室数に対して普及が十分とは言えなかったり、ITC教育を実践するのに不可欠な校内LANについては全体の1割以上の学校で未整備だったりと、改善の余地を残していることがわかります。
① タブレット端末の普及状況
② 電子黒板の整備状況
③ 校内LAN整備率
文部科学省 平成29年度 学校における教育の情報化の実態等に関する調査結果(概要)より引用
4. タブレットなどICT機器を活用した教育の事例
次に、ICT教育の実践例を一部ご紹介します。
◎3年生のクラスでタブレットをチャレンジ学習に活用
都道府県 | 大阪府 |
学校名 | 大阪初芝学園 はつしば学園小学校 |
概要 |
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◎タブレット端末を使ってプレゼンテーション
都道府県 | 大阪府 |
学校名 | 岡崎市立羽根小学校 |
概要 |
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◎タブレット端末を活用して地形図の読み取り方を学習
都道府県 | 愛知県 |
学校名 | 岡崎市立額田中学校 |
概要 |
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◎タブレットで情報収集し、作品づくりに生かす
都道府県 | 宮崎県 |
学校名 | 高千穂町立高千穂小学校 |
概要 |
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5.課題は、遠隔授業(オンライン授業)実施に地域格差があること
教師から子どもたちへ一方通行の教育から、子どもたちが積極的かつ意欲的に授業へ参加する新たな学びに直結したICT教育ですが、情報通信技術を活用した教育の改革はこれにとどまりません。たとえば過疎地の小中学校に向けた遠隔授業(オンライン授業)も重要なテーマの一つです。
離島や山間部など過疎地にある小中学校は少子化の影響で生徒数が激減していて、教育水準を適正に維持することが難しいという問題があります。対策として政府はリモートコントロールソフト(遠隔操作ソフト)を活用した遠隔授業を順次導入し、今年から4年間で全国1,900校に普及させることを目標に事業を推進することにしています。
この取り組みが成功すれば、都市部と地方、過疎地との教育格差の是正につながるだけでなく、ICT教育などにより学びの質そのものが改善する可能性があります。ただし、通信インフラの未整備やコスト懸念などから、いまだに遠隔授業を導入できていない自治体は25%にも上っているのが現状。そこで、文科省は新たに、遠隔授業を行う上で課題となる通信環境の改善などに力を入れ始めました。
その具体的な動きが「SINET(学術情報ネットワーク」の開放です。これまで、全国の大学や研究機関を結んでいた高速インフラ「SINET」を小中学校や高校でも利用できるようにすることで、通信環境を一気に改善してICT導入の起爆剤とする考えです。文科省は2023年度までに「遠隔教育を実施したいができない学校」をゼロにすることを目指しています。
またICT教育の導入が進まない一因に、現地のベテラン教師の間で新システムを敬遠する傾向があると言われています。従来の授業スタイルを、ICT教育や遠隔授業にすぐ移行させることは難しいでしょう。こうした課題に対しては、デジタルネイティブ世代の教師にICT授業を主導させることで解決できます。文科省では遠隔教育による先進的な教育を推進するためには、現場の教師を支援する取り組みも重要だとしています。
遠隔授業の実践は、教育機会の格差是正を図る上で欠かせない政策です。自治体や教育委員会だけでなく、国が主導して普及を図ることで、本来の目的を果たすことが可能になります。そのためには、一日も早い通信インフラの整備やリモートコントロールソフトの導入が不可欠だと言えるでしょう。
6. まとめ
受け身型の授業から、児童生徒が積極的に参加する革新的な授業へ──そのためにはICT教育を実践する環境の整備が欠かせません。時代に即した通信環境のアップデートも大切ですが、都市部、過疎地を問わずどの教育現場でも容易に導入できて、低コストで運用しやすいシステムが求められます。
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